1995年、「眼鏡は道具である。」とのコンセプトのもとに、ひとつの眼鏡ブランドが誕生した。
店舗で多くの経験を積み、眼鏡を熟知した有志が集まり立ち上げたブランド「999.9(フォーナインズ)」。
限りなく純度の高いものづくりを目指すその名前には、終わりなき探求への覚悟が込められている。
「日本人の頭の形に合う、掛けやすい眼鏡はないのか」という問いから始まった挑戦は、のちに日本の眼鏡業界に革命をもたらすこととなる。
ありそうでなかった、日本人の骨格に合う眼鏡
「999.9」とは、最高純度の純金を証明する数字である。しかし、最高純度といえど、1,000/1,000に到達するには0.1足りない。ブランド名の「999.9(フォーナインズ)」とは、1,000/1,000 を目指し残りの 0.1 を追求し続ける姿勢を表現している。たとえ、どんなに良い眼鏡ができたとしても、そこで終わりではない。現状に満足することなく常にクオリティの向上に努めることで、ブランドとして成長を続けるという強い意志が込められているのだ。
「はじめから日本人の骨格に合う眼鏡があったらいいのに……」
誕生のきっかけは、日々の接客の現場で感じていた、素朴な、しかし切実な疑問だった。
当時はアパレルのみならず、眼鏡においても海外のスーパーブランドが市場を席巻していたが、それらの眼鏡は当然、顔幅が狭く奥行きのある欧米人の骨格を前提に設計されていた。
ないのなら、自分たちで作るしかない。フォーナインズの歴史は、そうして始まったのだ。
「眼鏡は我慢」という常識を破りたい
当時、眼鏡は「目が悪くなったら、仕方なく掛けるもの」という認識が一般的だった。「掛けにくさや重さ、ズレる、耳が痛くなる、鼻に跡形が付くといった違和感は、やがて慣れるもの」というのが常識だったのだ。しかし、フォーナインズの挑戦は違った。視力矯正器具としての機能を追求しながら、掛けていて快適な眼鏡をつくる。
「掛けやすさ」という新しい価値基準を生み出すことで、眼鏡のイメージを我慢するものから、ポジティブなものへと変えようとしたのだ。
さまざまな骨格のユーザーが、最適なポジションで眼鏡を使用するためには、眼鏡店の技術者による調整(フィッテイング) が必要となる。ところが、頭蓋骨が前後に長く、鼻筋の高い欧米人に合わせて設計された海外製のフレームは、頭蓋骨が丸みを帯びて前後に短く、鼻筋が低めの日本人には、少しの調整ではフィットしない。そのため、鼻パッドを加工して高さを出したり、幅を調整したり、フレームを温めて頭の形に沿わせて調整したりと、眼鏡店の職人技に頼って一本ずつ調整する必要があったのだ。一人ひとりの顔に合わせてフレームを何ヶ所も曲げればフレームには負荷がかかるし、職人個人の技量によっても装着感は大きく変わってしまう。
それならばと、フォーナインズは考えた。もともと日本人の骨格に合う眼鏡を作れば調整は最小限で済み、個人の技量に左右されることなく、掛け心地のいい眼鏡をお客様に提供することができるのだ。
フォーナインズというブランドが形になっていく中で、最初に共感してくれたのは目利きの眼鏡店だった。一人ひとりの顔に合わせて調整するのではなく、もともと顔に合う眼鏡の誕生。それは、ありそうでなかった、まさに「目から鱗が落ちる」発想だったのだ。
ファーストモデルに込められた思想
世界有数の眼鏡の産地である福井県鯖江市の工場へ図面を持ち込み、何度も修正や試作を重ね、ようやく完成させたファーストモデル「E-01・E-02」。1995年に発表された2つのフレームは、日本人の骨格に合わせた設計だけでなく、テンプル(つる)の厚みに強弱をつけるという斬新な設計のプラスチックフレームだった。そうすることでテンプルに弾性を生み、フィット感を高めるという発想である。また、テンプルの先端(しのみ先)に丸みを持たせ、掛けはじめの接触感に配慮した。この「テンプルの厚みの強弱」と「しのみ先の配慮」は、30年経った今でもフォーナインズの基本設計として受け継がれている。
ファーストモデルから一貫して、フレームのフォルムや細かなデザインの細部にいたるまで、「機能を追求していくことで、必然的に美しいフォルムが生まれる」という、今に続く考えが随所に込められていたのである。
ファーストモデルから始まった、フォーナインズ の「掛けやすい」「壊れにくい」「調整しやすい」。視力矯正の道具としての眼鏡。根本にあるその思想は今も変わってはいない。
そして、ブランドのスタートから5年が経った2000 年、フォーナインズ は、ブランドを大きく発展させる画期的な機構を生み出すのである。
Journalでは、今回から5回にわたって、ブランド誕生の背景や転機となった出来事、ものづくりに込めた思い、創業時から変わらず根底に流れる哲学などを振り返る。次回は、ブランドの象徴ともいえる「逆Rヒンジ」について掘り下げていく。





